㊷魔界転生 山田風太郎
▶あらすじ
島原の乱に敗れ、幕府への復讐を誓う天草川の軍師、森宗意軒は死者再生の秘術「魔界転生」を編み出した。それは、人生に強い不満を抱く比類なき生命力の持ち主を、魂だけ魔物として現世に再誕させる超忍法だった。次々と魔界から甦る最強の武芸者軍団。魔人たちを配下に得た森宗意軒は紀伊大納言頼宣をも引き込み、ついに柳生十兵衛へと魔の手を伸ばす・・・。群を抜く着想と圧倒的スケールで繰り広げられる忍法帖の最高傑作!
(個人的な)点数 8/10
天草四郎、荒木又右衛門、宮本武蔵・・・歴史に名を轟かせた7人の男たちが蘇る!
十兵衛3部作の2作目にあたる本作。前作では、終始余裕のみられた十兵衛も、今回はかなり苦戦します。何しろ、父である柳生但馬守が敵になってしまうのだから・・・
1作目の「柳生忍法帖」での十兵衛の立ち位置は、家族を殺された女たちの復讐の手助けするいわばオブザーバー的なものでしたが、今回は彼自身が物語の中心。前作では触れられなかった彼の内面的な部分-父に対する苦悩と葛藤がクローズアップされています。
★本作の魅力★
①一瞬の対決シーン
バトル漫画だと、バトルシーンに尺を使いますよね。
しかし、本作の対決シーンは一瞬なんです。山田風太郎のすごいところは、一瞬の死闘を描くところ。その数秒に、血も汗も殺気もすべてが詰まっている。
また数行にも関わらず臨場感があるのは、カメラがあちこちに配置されているかのような、あらゆる角度からの描写ゆえ。
特に本作では、ラスボス・宮本武蔵との対決シーンが素晴らしかったです。午後4時、伊勢に浮かぶ島で向かい合う2人。燃える夕陽、西日を反射する海、白い砂浜に落ちる2人の影。
意識せずともそのシーンが頭に浮かび、知らず知らずのうちに息を止め読んでいる。作者の筆力に圧倒されます。
②脇役の使い方
1作目の柳生忍法帖では、女たちを守るため、恐ろしい敵相手に思わぬ奮闘をみせた坊様たちの姿に涙した読者も多いはず。
今回、脇役として物語をさらにアツくさせてくれたのは柳生十人衆。十兵衛のことを師と仰ぎ、自ら柳生十人衆と名乗る、どこかのんきで憎めない男たち。時にはムードメーカーとして場を和ませ、時には突拍子もない方法で十兵衛のピンチを救う。愛すべき彼らのそれぞれの死に様に、またも胸が熱くなります。
③印象的なラスト
これは本作だけでなく、風太郎作品の多くに言えること。少なくともこれまで読んできた「明治断頭台」「幻燈辻馬車」「甲賀忍法帖」「柳生忍法帖」では、ラストシーンが真っ先に浮かぶくらい、強烈な印象を残しています。
爽やかで清々しいのに、胸のどこかで木枯らしが吹く。強いて例をあげるなら、卒業式でのあの感情でしょうか。新しいステージへと進む新たな期待、その一方で、二度と手に入らないものを失ってしまったかのような、喪失感。
風太郎作品は、基本的に勧善懲悪で、全体的に陽な雰囲気が流れていますが、物語の幕引きはいつもどこか切ないのです。