51 妖魔の森の家 ディクスン・カー 【古典ミステリフェア】
▶内容紹介
長編に劣らず短編においてもカーは数々の名作を書いているが、中でも「妖魔の森の家」1編は、彼の全作品を通じての白眉ともいうべき傑作である。発端の謎と意外な解決の合理性がみごとなバランスを示し、加うるに怪奇趣味の適切ないろどり、けだしポオ以降の短編推理小説史上のベストテンにはいる名品であろう。ほかに中短編4編を収録。解説=中島河太郎
▶収録作品
妖魔の森の家
軽率だった夜盗
ある密室
赤いカツラの手がかり
第三の銃弾
(個人的な)点数 9/10
最近ショックを受けたことがあります。
それは、年々、古典ミステリを読むことが減ってきているということ。
これはいかんと思い、【古典ミステリフェア】を開催することにしました(笑)
いつまで続くか分かりませんが、しばらくは古典ミステリを読んでいこうと思います。
記念すべき1作目は、ディクスン・カーです。
カーと言えば、長編のイメージがありますが、なにやら傑作と評判高い短編があるそうで・・・それが本作、【妖魔の森の家】です。
どの収録作品もおもしろかったのですが、特に印象深かった2編について紹介します。
妖魔の森の家
ヘンリー・メリヴェール卿は、3人の若者とともに、妖魔の森へピクニックへやってきた。そのうちの1人、ヴィッキーが森に建つ別荘の密閉された部屋から姿を消してしまう。実は、彼女は20年前にも、同じ部屋で姿を消しており・・・。
妖魔の森の家は、ぜひ解説まで読んでほしい作品です。
本編だけでも充分おもしろいのですが、解説を読むことで、隠されていた伏線の数々に気づかされ、ミステリとしてのレベルの高さを実感できます。
この「見えない伏線」こそが、本編の傑作たる所以なんですね。
読者に手掛かりを提示しながらも、簡単に真相にたどり着かせないために、一文一文に細心の注意が払われています。カーが、フェアプレイをいかに重要視したかが分かります。
ミステリとしての完成度の高さ、一度読んだら忘れられないショッキングなトリック。怪奇小説家、ひいては密室の父の名にふさわしい作品でした。
第三の銃弾
密室で射殺された元判事の死体の傍らには、拳銃を握りしめた青年がたたずんでいた。その青年はかつて判事に極刑を命じられ、判事に復讐を誓っていた。誰もが犯人は明らかと思ったが、被害者を襲った凶弾は青年の銃から発射されたものではなかった・・・。
ハウダニットと、フーダニットの両方が光る秀逸な作品です。
数多くの密室を書いてきたカーですが、そのバラエティの豊かさには感心してしまいます。
本作の密室殺人でポイントとなるのは、人間の出入りではなく、3発の銃弾の出入りです。室内に残った銃弾の数と、放たれた銃弾の数が合わないという不思議な謎。間取り図とにらめっこしながら弾道を考えるのが楽しかったです。
人間の心理や先入観を逆手にとったトリックも見事でした。
フーダニットにおいても、カーのこだわりが見られます。【ミステリあるある】に対する皮肉を効かせた展開になっており、おもしろかったです。