㊿兇人邸の殺人 今村昌弘
▶あらすじ
廃墟テーマパークにそびえる「兇人邸」。斑目機関の研究資料を探し求めるグループとともに、深夜その奇怪な屋敷に侵入した葉村譲と剣崎比留子を待ち構えていたのは、無慈悲な首切り殺人鬼だった。逃げ惑う狂乱の一夜が明け、同行者が次々と首のない死体となって発見されるなか、比留子が行方不明に。さまざまな思惑を抱えた生存者たちは、この迷路のような屋敷から脱出の道を選べない。さらに、別の殺人者がいる可能性が浮上し・・・。葉村は比留子を見つけ出し、ともに謎を解いて生き延びることができるのか?!「屍人荘の殺人」の衝撃を凌駕するシリーズ第三弾。
(個人的な)点数 7/10
※ネタバレを含みます。
剣崎比留子シリーズといえば特殊設定ミステリ!
今回は、首斬り巨人が出て来ます。
屋敷の中を徘徊する巨人に見つかったら殺されるという、ホラーゲーム「青鬼」のような設定で、スリル満点でした。
ミステリとしては、パズル的要素が強く、推理するのが楽しかったです。
開閉すると音がする首塚の鉄扉がよい役割をしてましたね。屋敷の迷路のようなつくりと巨人の動線が掛け合わさることで、アリバイが生まれるのがおもしろかったです。
また、血痕の謎に関しては、被験者の高い回復力という特殊設定を活かしており、うまいなあと思いました。
ただ、謎解きをしていく上で、腑に落ちない点が1つありました。
それは、雑賀の首を切断する必要性とリスクが見合っていないことです。
まず、必要性から考えてみましょう。
裏井が首の切断トリックを実行した理由は、剛力の嫌疑を晴らすためです。
しかし、そもそも、剛力が雑賀を殺したと思っている人はいたのでしょうか…?
隠し部屋で殺されていた雑賀の胸には、たしかに剛力のナイフが突き刺さっていました。しかし、その死体の第一発見者は、剛力自身です。
彼女が犯人であるならば、ナイフは残さないはずですし、隠し部屋の存在は誰も知らないのですから、黙っていれば死体は一生見つからなかったはずです。
つまりこの場合、剛力が犯人であると考えるよりも、何者かが剛力のナイフを使い殺人を行なったと考える方が自然です。
もちろん、剛力による凝った自作自演だと受け取られる可能性は0ではありません。ですので、裏井の工作がまったくの無意味だったとは言いませんが、剛力の嫌疑を晴らす必要性は低かったと言えるでしょう。
次に、首切断のトリックに伴うリスクを考えてみます。
このトリックは、巨人が雑賀の首を切断してくれることが前提となっています。
しかし、巨人が副区画に侵入し、雑賀の死体を発見する保証はどこにもありませんでした。つまり、完全な運頼りだったわけです。
巨人が雑賀の首を切断することなく、朝を迎えてしまえば、死体のそばに何者かの血痕と中華包丁が転がっているという不自然な状況が出来上がっていたわけです。
「仮にそうなっていたとしても、これらの工作を行ったのが誰かまでは分からないからいいんじゃないの?」と思うかもしれません。
たしかに、裏井のほか、ボスとマリアにも工作は可能でした。
しかし、それはあくまで結果論です。
裏井が工作を行った時点では、彼は自分以外の人物の状況までは分からなかったはずです。ボスとマリアにたまたまアリバイがなかったから良かったものの、裏井以外には工作が可能な人物がいなかった可能性だってあったのです。
つまり、彼にとって一連の工作は、運頼りであり、失敗すると相当のリスクがあったわけです。
以上のことから、裏井の行動は、リスクが高いわりには必要性が乏しかったと言えます。
(しかし、今回の犯行は、綿密に練られたものではなく、その場その場の状況をうまく利用した即興的なものだと書かれているので、ケチをつけるのはナンセンスかもしれません。結局は、3日粘ったにも関わらず謎が解けなかった私の負け惜しみです(笑))
これは余談ですが、裏井のような優男キャラって、犯人率が高い気がします(笑)
そのせいか、最近はミステリに優男キャラが出てくると真っ先に疑ってしまいます。
逆に自己中で粗野な人物を犯人にするほうが、実は新鮮だったりするかも…??