53 招かれざる客たちのビュッフェ クリスチアナ・ブランド 【古典ミステリフェア】

▶あらすじ
英国ミステリ史上、ひときわ異彩を放つ重鎮のブランド。本書には、その独特の調理法にもとづく16の逸品を収めた。コックリル警部登場の重厚な本格物「婚姻飛翔」、スリルに満ちた謎解きゲームの顛末を描く名作「ジェミニ―・クリケット事件」、あまりにもブラックなクリスマス・ストーリー「この家に祝福あれ」など、ミステリの神髄を伝える傑作短編集。
(個人的な)点数 8/10
昨年読んだブランドの「はなれわざ」が年間ベストにはいるくらいおもしろかったので、今回は傑作短編集と名高い本作をチョイスしてみました。
16篇が収録されていて、500ページ超えとボリューム満点。
前評判からハードルは上がっていましたが、驚くべきことに、16篇すべてが、おもしろかったです。
何が一番すごいって、それぞれが違ったテイストであること。短編集というと、同じような展開の話が収録されていることが多いですが、本作は、本格ミステリ、サスペンス、倒叙など、ジャンルが豊富で、一冊で様々な味が楽しめる贅沢な作品です。
数ある話のうち、特に印象的だった話を3つ紹介します。
①事件のあとに
舞台女優が殺される。警察を出迎えた関係者一座は、落としたはずの舞台メイクを再び施していた。彼らの真意とは?
本編は、コックリル警部が、過去に起こった事件の話を聞きながら、推理を再構築していく、いわゆる「回想の殺人」です。
正統派ミステリで、個性派揃いの話の中では、どちらかといえば地味な作品かもしれません。しかし、なぜ一座は再びメイクを施していたのか?というシンプルな謎と、くるりと反転する真相が鮮やかでした。
②この家に祝福あれ
路頭に迷っていた若い夫婦に、部屋を貸すことになった孤独な老女。夫婦に赤ん坊が生まれると、老女は赤ん坊をイエス・キリストだと崇めるようになり・・・。
赤ん坊に固執していく老女と、何を考えているのか分からない夫婦。薄気味悪い雰囲気が漂う本編には、静かな狂気に満ちています。予想もしないオチが待っており、苦い後味を残します。
③囁き
お嬢様のダフィは、従兄弟のサイモンを強引に誘い、いかがわしいバーを訪れる。そこで、男に襲われた彼女は、厳格な父親に真実を言えず、サイモンに襲われたと嘘をつく・・・。
甘やかされて育ったダフィの身勝手な嘘のせいで、事態は最悪の状況へ転んでいきます。小さな綻びから嘘がバレていき、ダフィが徐々に追い詰められていく過程は、スリルを感じる一方で、ざまあみろ!という快感もあります。
保身のことしか考えなかった彼女の末路とは。胸に鉛が残されたような読後感です。