ミステリ亭 tama

当亭では、主にミステリ小説を蒐集しています。電話線が切断され、橋も落とされたようですので、お越しいただいた方はご自身で身をお守りください。

㊲麦の海に沈む果実 恩田陸

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▶あらすじ

三月以外の転入生は破滅をもたらすといわれる全寮制の学園。二月最後に日に来た理瀬の心は揺らめく。閉ざされたコンサート会場や湿原から失踪した生徒たち。生徒を集め交霊会を開く校長。図書館から消えたいわくつきの本。理瀬が迷い込んだ「三月の国」の秘密とは?この世の「不思議」でいっぱいの物語。

 

 

(個人的な)点数:5/10

 

 

湿原に囲まれた孤立した学園で、生徒たちが一人、また一人と殺されていく。

ホグワーツを彷彿とさせる全寮制の学校忍び寄る霊の影、生徒たちの間で渦巻く疑念と悪意―オカルティックな雰囲気を存分に楽しめる作品だ。

恩田陸さんの小説は、夜のピクニック」「ドミノ」しか読んだことがなく、ホラーテイストの作品は初めて読んだのだが、恐怖を演出するのがうまいなあと思った。理瀬が図書館で追われるシーンや、舞台上に麗子が現れるシーンなど、絶妙に怖い。

 

しかし、雰囲気や散りばめられた謎自体は魅力的なものの、真相には納得がいかず。理瀬や麗子の心境がいまいち分からないまま幕が閉じたという感じ。明らかになっていない部分も多く残っており、しっくり来なかった。

また、理瀬をはじめ、生徒たちはみんな美少女・美少年という設定があまり好きではなかった。個人的に、不器量とまではいかなくても、いたって平凡なキャラクターが読者の予想を超えて活躍する小説が好きなので、なんだか出来すぎた世界をみているようで苦手だった。でも、中高生のころに読んでいたら、今よりきっと楽しめたと思う。

 

 

㊱幻燈辻馬車 山田風太郎

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▶あらすじ

明治15年。年々文明開化の華やかさを増す東京を行く1台の古ぼけた馬車があった。それを駆るは元会津同心の干潟干兵衛。孫娘のお雛を馭者台の横に乗せて走る姿が話題を呼び、日々さまざまな人物が去来していく。ある日2人は車会党の恨みを買い、壮士らに取り囲まれてしまう。危機に晒されたお雛が「父!」と助けを叫ぶと、なんと無人の辻馬車が音もなく動き出した!そして現れたのは・・・?山風明治ロマネスクの最高傑作。

 

 

(個人的な)点数:8/10

 

 

 

朴訥だけれど情に厚い干兵衛と、干兵衛の孫娘のお雛。干兵衛はささやかながらも穏やかな日々を送りながら、毎日辻馬車を走らせる。しかし、この親子馬車に乗車してくるのは問題を抱える者たちばかり。時には自ずから、時には意図せず、干兵衛は自由民権を掲げる壮士たちの闘いに巻き込まれてゆく。

「明治ものの傑作」と謳われるだけあって、非常におもしろかった。

山田風太郎といえば、史実とフィクションの融合だ。本作も、登場人物たちのほとんどが実在の人物である。作中で起こった出来事を調べてみると、実際にあった歴史的事件だったりするのが楽しい。

訪れるピンチに、干兵衛の機転や、仲間たちやお雛の呼ぶ幽霊の力を借りて、切り抜けてゆく王道的な展開の中に、ピリリとシビアな部分もあるのも山風作品の魅力。干兵衛も予想できなかったお梅の行動や、人格が変わってしまった赤井の姿など、ただの娯楽小説とは言えないところがまたいい。

 

 

幽霊ものとして

危機に陥ったとき、お雛が呼ぶと助けに出てくる息子の蔵太郎と妻のお宵の幽霊。どんな強敵も、攻撃の効かない幽霊には適わない。しかし、お雛の成長とともに、徐々にお雛の呼ぶ声は彼らに届かなくなって・・・。

幽霊ものでありながら、そこに哀切さはない。死んだ父を呼ぶお雛の姿にはほろりとするものがあるが、幽霊たちと干兵衛たちの関係は意外にもドライだ。蔵太郎など、お雛の声が聞こえず出てくるのが遅れれば、干兵衛に「呼んだらすぐ出てこい!」と叱責される始末(笑)

しかし、この設定、ラストに思わぬ角度からガツンと食らわされる。この清々しい幕引きのために用意されていたのかと思うほど。

「明治断頭台」と並んで、ラストが印象深い一冊だ。

 

㉟鳥 デュ・モーリア傑作集 ダフネ・デュ・モーリア

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▶あらすじ

ある日突然、人間を攻撃しはじめた鳥の群れ。彼らに何が起こったのか?ヒッチコックの映画で有名な表題作をはじめ、恐ろしくも哀切なラヴ・ストーリー「恋人」、奇妙な味わいをもつ怪談「林檎の木」、出産を目前にしながら自殺した女性の心の謎を探偵が追う「動機」など、物語の醍醐味溢れる傑作八編を収録。「レベッカ」と並び代表作と称されるデュ・モーリアの短編集、初の完訳。

 

 

〝傑作集〟と謳われているだけあって、どの短編もレベルがバベルの塔並みに高い(?)

デュ・モーリア作品は、代表作レベッカと、第2のレベッカと呼ばれている「レイチェル」を読んだことがある。「レベッカ」は言わずもがな、「レイチェル」も決してレベッカの二番煎じではなく、一味違う良質ミステリだ。

本作をいれてたった3作しか読んでいないが、デュ・モーリア心理描写が非常にうまい作家だと思う。「心理サスペンスの女王」と呼ぶべきか。今ではもう古典の部類にはいるのかもしれないが、それで敬遠していては勿体ない!「レベッカ」を一度読んでみてほしいところだが、長編はちょっと・・・と言うことであれば、粒揃いの本作をおススメしたい。

 

 

▶以下、特に印象深かった5作について紹介します!

 

①「恋人」

わたしはこの話が一番好きだった。主人公が一目ぼれした女性の正体に、読者は早い段階で気づくだろう。

主人公の恋は決して叶わないと読者は分かっているからこそ、彼らの行動や言葉の一つ一つに胸が締め付けられる。残酷な物語でありながら、苦しくなるほど切ない。雨降る夜の墓地のシーンは中々忘れられない。

 

 

②「鳥」

ある日突然、鳥たちが狂暴化し人間を襲うという恐ろしい話で、デュ・モーリアの代表作の一つ。ヒッチコックにより映画化もされており、原作は知らなくてもタイトルは聞いたことはあるかもしれない。

パニック小説といえば、登場人物が多いイメージがあるが、「鳥」では主人公一家以外ほとんど登場せず、その世界は閉鎖的だ。

また、パニック小説やディザスター映画などは、基本的に【動】である。戦う、逃げる、など行動的な意味はもちろん、襲来した危機に対し人間がどのように抗い平穏を取り戻すかというのが物語の主体だからだ。

それに対し、本作の主人公は家族を守ることだけを考え、籠城という最も賢明な方法をとる。

そのためオーソドックスなパニックものに比べて全体的に【静】であるが、このような主人公の心理状態にしても、また鳥に襲われた死体がむやみに出てこないことからしても、エンターテイメント性が排除されておりリアルな恐怖がある。そのため、「パニック小説」というよりは「上質なサスペンス」といった印象を受けた。

 

 

③「モンテ・ヴェリタ」

解説で千街氏がデュ・モーリアの短編の中でも一、二を争う傑作、あえて言うなら〝神品〟だと思う。」と絶賛している通り、他にはない独特の雰囲気を持つ作品だ。

主人公の友人夫妻は、山登りの途中である村を訪れる。しかしその晩、妻が突然姿を消してしまう。探し回る友人に村の人々は言う。この村では女の失踪が続いており、彼女たちはみんなモンテ・ヴェリタに呼ばれていってしまったのだと。モンテ・ヴェリタで彼女たちは永遠に美しいまま生きるのだと。

本作は圧倒的な【幻想性】を持ちつつも、幻想小説ではない。幻想と現実のはざまで絶妙なバランスをとる作品だ。

ラスト、その余韻に浸っていた読者は、冒頭に提示されていた3つの仮説をもう一度読み返すことによって、幻想でも現実でもない場所へ放り出されるような感覚を味わうだろう。

 

 

④「林檎の木」

異色のホラーである。

疎ましい妻が死に、ようやく自由を手に入れた主人公。しかし、庭に生えた妻そっくりの陰鬱な林檎の木が目について・・・。動くこともしゃべることもないただの木をこれほどまでに恐ろしくできるのは、モーリアの卓越した心理描写でこそなせる業だろう。

 

 

⑤「動機」

出産を間近に控えていた妻が突然自殺してしまい、その動機を探っていくミステリ。幸せいっぱいだったはずの妻の身に何が起こったのか?

探偵が探り出していく彼女の過去は、思いもよらぬ暗闇へと繋がっていく。この短編集の中では唯一ミステリの体系をとり、ホワイダニットが見事な作品だ。

 

 

 

 

 

 

 

アニメ「オッドタクシー」~考察~

*アニメ「オッドタクシー」についての自分なりの考察です。ネタバレしかないので、ご注意ください。

 

以下、8話までのネタバレあり。

 

 

 

 

●小戸川の病気について

これは自分で一から考えたのではなく、別の方の考察を読んだ人から、多くのヒントをもらってたどり着いたものなので、さらっと書きます。

先に結論を言うと、小戸川には「自分も含め人間が動物に見えている」のです。これが彼の病気です。

確かに、動物たちの世界に対し、いくつか違和感はありました。

3話くらいまでみて、登場人物たちが動物である必要はあるの?と思いませんでしたか?名前や行動は人間そのもの、彼らの生活する世界はわたしたちの住む世界と何も変わりありません。

また、動物たちの世界であるなら、彼らにとって「動物の種類」というのは個々を見分けるための最も重要な情報のはず。しかし、登場人物たちの会話の中でこの情報はほとんど交わされません。例えば、5話で、事務所の前で少女を下ろしたことがあると言う小戸川に対し、山本は「今日乗せた子の誰かだね」と確認しますが、手っ取り早く、少女がどんな動物だったかを聞けばいいのに、と不思議でした。

他にも、田中やホモサピエンスの馬場がはまっているアプリゲーム「ズーデン」ですが、最初にみたときは、動物が動物を育てるというシュールさに笑いましたが、よく考えると違和感があります。

これらは、彼らは動物ではなく人間だったと考えればすべて解消されます。

 

このからくりに気づくための最大のヒントは8話で、剛力が小戸川の能力を探るため、人物あてクイズをするシーンです。小戸川は、柿花の逆光写真も、目隠しされた白川さんの写真も容易く当てましたが、それによって小戸川の能力の正体が分かるわけではありません。剛力が言うように共感覚なのかもしれないし、オーラか何か見えているのかも知れず、能力の特定まではできません。

しかし、このシーン、別の部分に決定的なヒントがありました。それは、一緒にクイズにチャレンジしていたおかみが隠しされた白川さんの写真を当てられなかったことです。この写真は誰がどう見たって白川さん。小戸川が当てれたということよりも、おかみには分からなかったという事実のほうが大きなヒントだったのです。

 

小戸川の大勢の中から特定の人を探し出すことが出来る能力もこの病気に起因します。人込みで1人の人間を見つけるのは難しいですが、外見の大きく違う動物たちの中でキリンを見つけるのだと考えれば、確かに簡単ですよね。

 

小戸川がいつからこの病気を患っているのかは分かりません。しかし、1話の過去の回想シーンに出てくる小戸川の両親?と思われるシルエットは人間のようにも見えます。

 

小戸川の病気は日常生活に支障が出そうですが、剛力が気づいていないことからも、まだ周りとの大きな齟齬は生じていないようです。しかし、他者との会話でところどころすれ違いが生まれていました。

例えば、小戸川が乗せた少女について山本が聞くシーン。乗せたのは市村ではないかと聞かれ、小戸川が「あの子三毛猫じゃん。ちょっと違うんだよなあ」と返すと山本は不思議な顔をします。2回目に乗せたときは、「三毛猫・・・どこで見たっけな」という呟きに対して「何言ってんの、小戸川さん」とはっきり言われています。

しかし、人を動物に例える人っていますよね。うまいなと思ったのは1話の診察のシーン。剛力に「俺は何に見える」と聞かれ小戸川は「ゴリラ」と答えています。これほどまでに小戸川の病気が直接的に描かれているシーンはありません。しかし、剛力は体格のいい自分に対する冗談だと受け止め、「まあ合ってる」と流しています。

 

わたしたちが見ているのは小戸川目線の世界。盲点をつく叙述トリックは見事ですが、フェアか否かでいえばフェアではないかもしれません。というのも、小戸川がいない場面でも人間たちは動物ですし、4話の田中革命に至っては、始終田中目線であるにも関わらずみんな動物です。

 

 

 

 

 

*次からは自分なりの考察です。的外れも甚だしいかもしれませんが、ご容赦ください(笑)

 

●ミステリーキッスの三矢は途中で入れ替わっている?

三矢はミステリーキッスの黒猫の子。二階堂や市村に比べて影が薄いですが、三矢こそ女子高生失踪事件のキーマンではないかと私は思っています。

三矢入れ替わり説を考え始めたきっかけは、5話での市村のセリフです。

山本と市村が小戸川のタクシーでスタジオに向かうシーン。山本が「三矢が先に行ってるから」と市村に言ったところ、「あの子苦手なんだ。前のほうがよかった」と返します。

「前のほうがよかった」というのはどういうことでしょうか?ミステリーキッスファンの今井によれば、メンバーは結成当時から変わっていないはずです。

 

この今井ですが、2話のミステリーキッスのチェキ会のシーンで、二階堂に「三矢さんダンスのキレが悪くなったよね」と言っています。これも三矢入れ替わり説を補強するセリフです。

 

(これは感覚的な話ですが、山本や市村がやたら「三矢は後輩だから」と言っているのも気になります。ミステリーキッスは3人で活動を始めたはず。それなのにメンバーの1人が後輩呼ばわりされているのは何だか違和感があります。言葉通り、彼女だけ途中から加入したため後輩と言われているのはないでしょうか)

 

入れ替わりがあれば当然気づくはずですが、まるで素顔を隠すように、市村と三矢は仮面をつけて活動しています。

2人が顔出しして活動していたころを知っている今井が、三矢の入れ替わりに気づいていないことから、入れ替わりの時期は少なくとも仮面をつけ始めた時点以降であるはずです。

 

 また、ひそかに入れ替わりが行われているのだとすれば、現在の三矢は前任者の名前も引き継いでいることになります。どうしてそこまでして前任者がいなくなったことを隠そうとしているのでしょうか。

 

↓↓↓

 

三矢には前任者がいたと仮定しましょう。

その場合、いくら仮面で顔を隠しているといっても、前任者の外見は、今の三矢に似ていなければなりません。

小戸川からみた三矢は黒猫です。とすれば、前任者も、小戸川からすれば黒猫か、またはそれに近い動物に見えるはずです。

 

三矢以外の黒猫といえば、一人思い当たる人物がいます。それは、失踪した女子高生。コンビニの防犯カメラに映っていた彼女の姿は黒猫です。というか、三矢そっくりです。(女子高生が黒猫であるかは確かではありません。しかし私には黒猫にしか見えません)


ここで【前任者=練馬の女子高生】と仮定しておきます。

 

次に、その女子高生ですが、彼女はコンビニを出た後タクシーに乗ったと報じられています。

ここで出てくるのが、小戸川が事務所の前まで乗せたという少女です。この少女こそが女子高生ではないでしょうか。

それを裏付ける証拠はいくつかあります。

まず日付です。女子高生がタクシーに乗り行方不明になったのが10月4日のこと。5話で小戸川は、2週間ほど前に中目黒の事務所で少女を下ろしたことを山本に漏らしますが、その日の日付は分かりません。しかし、2話で今井を乗せた日付が10月15日。(小戸川のスマホに日付が出ています)2話から5話までの間に何日経過したかは不明ですが、時期が大きくずれているというのはなさそうです。

 

次に、少女が事務所の前で降りているという事実です。山本が事務所にはミステリーキッスしか所属していないと言っていることから、少女はミステリーキッス関係者だと考えられます。少女が女子高生(=前任者)だとするなら、自分が所属する事務所の前で降りることは自然です。

 

最後はタクシーのサンバイザーに挟まれたハートの装飾がついたペンです。どう見ても小戸川の私物とは思われず、タクシーの中でかなり浮いています。そのペンですが、なんと5話で山本が同じものを持っているのです。ペンは2話の時点ですでにサンバイザーに挟まれているので、山本のペンとは別物です。しかし、装飾は同じ。つまり、大量生産されているペンで、可愛らしい装飾や、山本がそれを使っていることから、ミステリーキッスのグッズではないかと考えられます。

市村と(今の)三矢が持っていたものでしょうか。しかし小戸川は2人を5話で初めて乗せているので、彼女たちのものではありません。

となると、考えられるのは事務所で降りた少女です。彼女が女子高生(=前任者)だとするなら、グッズを持っていても不思議ではありません。降りる際に忘れたのでしょう。(小戸川がもらったというのは考えにくいです。もしもらったのなら、山本にその少女のことを聞かれたときに言ったはずです。おそらく、そのペンに気づいた時には、少女の後に何人か乗せており、誰の落とし物か小戸川は分かっていないのではないでしょうか)

これで、とりあえず【前任者=練馬の女子高生=事務所で降りた少女】と繋がりました。

 

 

次に、事務所で降りた少女はその後どうなったのでしょうか。

彼女こそ、海に遺棄されていた死体ではないかと考えられます。

まず、小戸川が少女を乗せた話をしたときの山本の反応です。彼は急に焦り出し、ドラレコを買い取りたいと言い出します。「少女が小戸川のタクシーに乗り、事務所の前で降りた」という事実を隠蔽しようとしているように感じます。

次に、三矢の入れ替わりが行われている点です。単に、前任者が事務所を辞めただけなら、メンバーが変わりました!と発表して新メンバーで活動すれば良かっただけの話。しかし、山本は三矢をひそかに入れ替えさせるというリスキーなことをしており、前任者がいなくなったことを周りに隠そうとしているのです。

少女が事務所を降りた後、殺害されたのであるとするなら、山本の反応や行動は納得がいきます。

(もちろん、「前任者は事情があって辞めました」と発表したからといって、すぐに警察が身元不明の死体と結びつけることはないでしょう。しかし、予想よりも早く死体が見つかり、身元が特定された場合、最近辞めたミステリーキッスの子に似てるな、と思われるリスクを避けたかったのではないでしょうか)

 

 

以上のことをまとめると、【前任者=練馬の女子高生=事務所で降りた少女=海に沈んだ死体】という方程式ができました。

彼女に何が起きたのかまとめると、以下のようになるはずです。(彼女のことは以下、代表して女子高生と呼びます)

 

↓ ↓ ↓

 

女子高生は親に内緒でミステリーキッスとして活動していました。(親に内緒にしていたことは、三矢入れ替わりが行われていることから分かります。親が娘の活動を把握していたのであれば、山本は三矢入れ替り工作を行うはずありません。)

 

10月4日の晩、女子高生は小戸川のタクシーで自分の所属する事務所に向かいました。その時に、持っていたペンを車中に忘れてしまいます。その後、山本、もしくはヤノたちとトラブルになり、殺害されてしまいます。(トラブルの原因は分かりませんが、例えば、①ミステリーキッス(主に二階堂)にとって不利益になる行動をしようとした。②ミステリーキッスの背後にヤノたちがいることを世間に暴露しようとした、などでしょうか・・・。ここは完全に想像です。)

 

しかし、自宅に帰らない娘を心配して、親が失踪届を出し、女子高生失踪のニュースが報じられてしまいます。失踪届を取り下げさせるため、山本たちは、父親とボスとの関係が原因で家出したのだと嘘の理由を両親に伝えます。(ボスによれば、本人から人づてに連絡があったとのこと。)

(女子高生の父親がボスと友人関係であることを、山本たちが①いつ、②どのようなきっかけで知ったのでしょうか。①時期については、少なくとも女子高生の死後でしょう。女子高生の父親が、自分たちのボスと繋がっていることをあらかじめ承知していたのであれば、どんな理由があれ殺害するなんて手はとらなかったはずだからです。②きっかけについては確かなことは分かりません。あえて考えるなら、ドブより前に、ヤノはボスから女子高生の捜索依頼を受けたのではないでしょうか。「練馬の失踪した女子高生が友人の娘なんだ、探してくれ」とボスに言われ、そこで初めて自分たちが殺害した女子高生がボスの友人の娘であったと気づいたのです。そこで、慌てて女子高生の両親に連絡をとり、偽の家出理由を流して失踪届を取り下げさせます。これで一件落着と思いきや、ボスは今度はドブにも捜索を依頼するのです。これもまた根拠のない想像ですが…)

 

 山本たちはその後、前任者がいなくなったことを周りに気づかせないために、容姿の似た(今の)三矢を代役に仕立てます。(三矢がなぜ、前任者の名前を引き継ぎ仮面をして活動するという条件に応じたのかは不明です。しかし、アイドルになるために大分から出てきたという彼女。中々、うまくいかず悩んでいたところを山本に拾われたのかもしれません。)

 

 

以上が自分なりの考察です。

この説が正しいとするなら、小戸川の病気が見事な役目を果たしています。

そもそも、人間が動物に見えてしまうという小戸川の病気は分かったものの、それがどのように物語に関係してくるのか分かりませんよね。

これまでの説にたどり着くのには、登場人物たちが動物であることが大きな手掛かりとなりました。前任者=女子高生だと結びついたのは、彼女たちが黒猫という共通した動物として描かれていたからです。もしこれが人間であれば、外見をいくら似せていたとしても、これほどはっきりした確信は持てませんでした。

 

一方で、小戸川の病気はミスディレクションとしての働きもしています。小戸川の病気について気づく前から、私は三ツ矢入れ替わり説を考えていました。しかし、三矢が黒猫(動物)であるがゆえに行き詰りました。「仮面で目元を隠しただけで、入れ替わりに周りが気づかないなんてことあり得るだろうか?」と思ったのです。しかし、彼らの本当の姿は人間であるとするなら、まだ納得できます。同じ髪型で同じ体形の女の子に仮面をつけさせたら、入れ替わりが行われても見抜けないのではないかと思うのです。(これは前述した「目隠しされた白川さんの写真」と同じ理論ですね)

 

つまり、小戸川の病気は真相にたどり着くための鍵である一方、真相を隠すベールでもある。もしも私の説が当たっているならば、小戸川の病気はかなり巧妙なテクニックです。

 

 

しかしまた、悔しいことに、この説をとると疑問点も生じます。

①(今の)三矢の適応力高すぎ問題

女子高生が失踪したのが10月4日なので、三矢が前任者の代わりに活動をはじめたのは、つい最近のことです。とするなら彼女は抜擢されてすぐにチェキ会に出たり、舞台で踊っていることになります。いくらなんでも適応力がお化けすぎます。普通に考えて、ちょっと無理があるように感じます。

 

②女子高生の顔はニュースで報じられているのか問題

これは私の仮説上避けて通れない大きなポイントです。

ニュースで女子高生の顔が報じられているのかいないのか、明示されているシーンはありません。

しかし、私は報じられてないと考えます。

というのも、8話でのドブのセリフです。小戸川に、「ドライブレコーダーにはボスの同級生の娘がうつっていたのか」と聞かれ、ドブは「確認したけど、どの客がそうなのか俺には分からない。ボスに見せるわけにもいかないしな」と答えています。顔がニュースに出ているのであれば、何もボスに聞かなくてもニュースを見ればいいだけの話。このことから、女子高生の顔は報じられていないのではないかと予想します。

 

そもそも、女子高生の顔が報じられていたとすると、私の仮説はすべて崩れ去ってしまいます(笑)

まず小戸川ですが、私の仮説では女子高生を乗せています。しかし、小戸川自身、自分が乗せたのか乗せてないのか分かっていません。小戸川は女子高生の顔を知らないため、たとえ乗せていたとしても分からないからです。しかし、もし顔が報じられているとすると、小戸川は1話でニュースをみているので、自分が乗せたことが分かっていないとおかしいのです。

また、これは今井についても言えます。私の仮説では、前任者=女子高生です。前任者の素顔を知る今井は、ニュースをみれば「三矢さんじゃん!」と気づくはずです。(彼がニュースを見ていないという可能性は十分ありますが)

 

よって、私としては女子高生の顔が報じられていると大いに困るのですが、行方不明者のニュースって、普通顔が出ませんでしたっけ・・・?これについては、転びようによって大きく真相が変わってくる重要なポイントです。

 

 

ここまで長々書いておいてまだ書くのかという感じですが、ボツになったもう一つの仮説も書いておきます。

それは、(今の)三矢=女子高生説です。

これまでの前任者=女子高生説を支える柱となっているのは、女子高生が黒猫だという点です。

しかし、その考えをするなら、三矢=女子高生説も成り立つはずです。そもそもこの二人が激似なのですから。

三矢は家出したところを、前任者の代役を探していた山本に拾われたとは考えられないでしょうか?その場合、三矢は5話で初めて小戸川のタクシーに乗ったはずなので、①三矢=練馬の女子高生②前任者=事務所で降りた少女=海に沈められた死体となり、最初の説と方程式が変わってきます。

 

しかし、その場合、いくつか疑問点が出てきます。

①5話での三矢と山本との会話によれば、三矢は夢を叶えるとお母さんに誓って大分から出てきたとのこと。ニュアンス的に、お母さんは大分にいて、三矢だけ上京してきたかのように聞こえます。

一方女子高生は、ニュースで「女子生徒は午後10時頃家族と話したあと深夜に外出」し、「6日に母親から警察に行方不明者届がだされ」たと報じられています。両親が離婚や別居している説はありますが、三矢の話とどこかちぐはぐな印象を受けます。

 

②また、親に家出の理由を連絡したのは誰なのでしょうか。ここで重要なのは、女子高生は人づてに連絡してきたということ。女子高生が三矢なのであれば、普通に考えて山本が代わりに親に連絡したと考えられます。しかし、そうなると山本は、三矢が自分たちのボスの友人の娘であるということを知っていながら、前任者の代役をさせているということになります。一概におかしいとは言えませんが、違和感があります。しかも、三矢はこれからどんどん表舞台に立つ身です。いくら仮面をしているとはいえ、行方不明となっている少女にそんなことさせるでしょうか?

 

これらの疑問がどうしても解消できなかったため、この説はボツにしました。

 

 

 

 

 

 

おまけ:大門兄弟について

これについてはもう完全に根拠のない想像、こうであってほしいという願望なので、読み飛ばしてもらって結構です。

 

私が考えたのは大門兄は復讐のためにドブに近付いている説です。どうも、ただの金目当てでドブと繋がっているような気がしないのです。7話での弟の話によると、2人は幼いころ両親をタクシーにひき逃げされ、悪を懲らしめるために警察官になったそうです。また、ドブについては、「むかし、俺たちが警察になる前、ドブは銀行強盗で捕まっているんだ」と言っています。ドブは現在、小戸川のタクシーを逃走に利用して銀行強盗をしようと企んでいます。もしかすると、過去の銀行強盗でもタクシーを利用したんじゃないかと思ったり・・・。ドブの逃走用に雇われたタクシー運転手が2人の両親をひき殺してしまった・・・とかはないでしょうか。ドブは、今回の銀行強盗の計画に、仲間として大門兄を引き入れていると話します。ここで大門兄が裏切ればドブは大ピンチ。この展開を期待する自分がいますが、兄が完全に闇落ちしていたとしても、それはそれで切なくていい(笑)

 

 

 

 

 

 

アニメ「オッドタクシー」~紹介~

現在、テレビ東京などで放映されているODDタクシーというアニメをご存じでしょうか?今年の4月に始まったアニメで、アマゾンプライムでみることができます。

 

あらすじ:

平凡な毎日を送るタクシー運転手・小戸川。身寄りはなく、他人とあまり関わらない、少し偏屈で無口な変わり者。趣味は寝る前に聞く落語と仕事中に聞くラジオ。彼が運ぶのは、どこかクセのある客ばかり。何でもないはずの人々の会話は、やがて失踪した1人の少女へと繋がっていく・・・(一部抜粋) 

 

登場人物はみんな動物です。

動物というと、ふわふわした感じのアニメに思えますが、それは全く違います(笑)

まず見た目は可愛くないし、主人公はテンションの低い40代のおじさんドライバー。お酒は飲むし、ヤクザは出てくるし、殺人は起こるし・・・シュールで独特な世界観のため、好き嫌いは分かれると思いますが、ミステリ好きにはぜひおススメしたい!

主人公の小戸川が様々な事件に巻き込まれていくのですが、伏線が張り巡らせており、謎解きしがいのある作品です。特に、一見関係のないような出来事が徐々に繋がっていくのは見事。

また、キャラクターも個性的。登場人物たちはみんな何か抱えていて、それぞれのドラマも楽しめます。(ちなみにわたしは大門兄推しです(笑))

現在第8話と途中なので、今後どのような展開になるか分かりませんが、非常に練られた作品であることは間違いなし。アマプラで見ることができるので、ぜひ覗いてみてください!

 

*次の投稿では忘備録として自分なりの考察をのせています。完全なネタバレもあるので、まだアニメをみていない方はご注意ください。

 

 

㉞暗幕のゲルニカ 原田マハ

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▶あらすじ

ニューヨーク、国連本部。イラク攻撃を宣言する米国務長官の背後から、「ゲルニカ」のタペストリーが消えた。MoMAのキュレーター八神瑤子はピカソの名画を巡る陰謀に巻き込まれていく。故国スペイン内戦化に創造した衝撃作に、世紀の画家は何を託したか。ピカソの恋人で写真家のドラ・マールが生きた過去と、瑤子が生きる現代との交錯の中で辿り着く一つの真実。怒濤のアートサスペンス!

 

 

 

 

▶ネタバレ感想

「楽園のカンヴァス」ではアンリ・ルソー「たゆたえども沈まず」ではゴッホ「ジヴェルニーの食卓」では印象派の画家たち、そして「暗幕のゲルニカではピカソ

原田マハさんのアート小説を読めば、何となくみてきた名画の名画たる所以が知れる。

ピカソは、それこそ幾何学的な不思議な絵を描く画家というレベルの知識しかなかった。ゲルニカという作品も、存在は知っていたがスペイン内戦への批判を込めた作品だということは知らなかった。

ゲルニカは、バスク地方の小さな街で、史上初の無差別爆撃が行われた場所である。ゲルニカでのこの空爆は、日本に対する原爆の投下とルーツを同じくする出来事である。当時パリにいたピカソは、ゲルニカ空爆のニュースを聞き、戦争に対する怒り、嘆き、そしてその愚かさをキャンパスにぶつけた。そして生まれたのが「ゲルニカ」だ。

 

本作は現在パートと過去パートが交錯しながら物語が進む。

現代パートは9・11後のアメリカが舞台だ。「戦争」という言葉を避け、「テロとの闘い」と謳いイラクへの攻撃を始めたアメリカ。愚かな戦争を止めるため、罪なき人々の犠牲を出さないため、ピカソの研究者である八神瑤子は自身の主催するピカソ展で反戦のシンボル」であるゲルニカを掲げる決意をする。しかし、ゲルニカを所有しているスペインでは、ゲルニカ奪還を企むバスク地方のテロ組織が存在し、ゲルニカを組織から守るためにも、ほぼ永久的に貸し出しは出来ないと拒絶されてしまう。

 

一方過去パートは、ゲルニカが制作された1930年代のパリを舞台とし、ピカソの愛人であるドラ・マールの視点で話が進む。彼女はゲルニカの制作過程を撮影し続け記録を残した人物で、また「泣く女」のモデルともなった女性だ。ゲルニカの誕生から、その後ナチスに目をつけられたゲルニカを国外に逃がすまでの、ピカソやその支援者たちの闘いが描かれる。

 

原田さんの作品に登場する者たちは、みなそれぞれ自分にとっての「運命の絵」と出会い、その絵が人生の指針となっている。本作も、ゲルニカに魅了された二人の女性が登場する。

私は美術館で絵をみることが好きだ。しかし、まだ運命の絵には出会っていない。ゆえに、わたしは人生を変えるほどの絵画の力というものがまだ分からない。

しかし本作を読んで、実際に絵画の力は存在するかもしれないと思った。というのも、「ゲルニカ暗幕事件」は決して創作ではないのだ。実際に、パウエル長官がイラクへの攻撃を事実上肯定した会見で、長官の後ろにあるはずのゲルニカタペストリーがなかったのだそう。本作のタイトル通り、その時だけ暗幕がかけられていたのだ。真意は定かではないが、戦争を肯定する会見の背後で「反戦のシンボル」に暗幕がかけられたことは、絵画の力の存在を何よりも証明する出来事のように感じた。

 

㉝ぼっけえ、きょうてえ 岩井志麻子

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▶あらすじ

―教えられたら旦那さんほんまに寝られるんようになる。・・・この先ずっとな。時は明治。岡山の遊郭で醜い女郎が寝つかれぬ客にぽつり、ぽつりと語り始めた身の上話。残酷で孤独な彼女の人生には、ある秘密が隠されていた・・・。岡山地方の方言で「とても、怖い」という意の表題作ほか三篇。文学界に新境地を切り拓き、日本ホラー小説大賞山本周五郎賞を受賞した怪奇文学の新古典。

 

 

 

 

 ▶︎ネタバレ感想

岡山地方が舞台のホラー短編集。明治時代の遊郭や、閉鎖的な山村や漁村で起こる怪異が岡山の方言で語られる純和風ホラーである。

さて、それぞれの話には幽霊らしきものや得体のしれない化け物が出てくるが、わたしは怪異よりも、人間のほうが怖かった。

 

まず表題作のぼっけえ、きょうてえ。女郎の語る「姉ちゃん」の正体が人面瘡だったというのは、衝撃的であるものの、それ自体は怖くない。怖いのは「うちの姉ちゃん、旦那さんに惚れたみたいじゃわ。」という最後の女郎の言葉だろう。このおぞましい出来物に執着されてしまった男はその後どうなるのか。尻切れトンボの終わり方が居心地の悪さを残す。

「密告函」では、お咲の霊よりも、表面上は普通の顔をしながら、裏で憎悪や悪意にまみれた行動をする人間たち―密告函に投函する村人や、従順な振りをしながら夫を殺そうとする妻―のほうが遥かに恐ろしい。

「あまぞわい」では、海女の霊が出てくるが、ユミが何よりも恐れているのは、自分が姦通していることが夫にバレることだ。彼女の恐怖の対象は霊などではなくもっと現実的なもの、夫や自分を取り巻く小さな世間なのだ。

「依って件の如し」は霊ではなく、牛の化け物が登場する。幼いシズは化け物の影に怯えるが、最後に彼女が知ることとなる現実のほうが何倍も陰鬱だ。慕っていた兄が自分の父親だったという事実、そして既に死んでいる息子の帰りを待つ竹爺の胸中―

 

 

現状が不幸な者ほど、彼岸に引き寄せられてしまうというのがやるせないな。一般的なホラーは、怪異自体がメインで、それ以外の部分は効果的に恐怖を演出するための道具に過ぎないが、本作は逆のように感じた。人間の憎悪や悪意のほうがはるかに恐ろしく、あちら側の世界は、ただ行き着くべくして存在する場所なのだ。