㊴宿で死ぬ 旅泊ホラー傑作選
▶あらすじ
ひっそりと佇む老舗の旅館や、どこか懐かしいグランド・ホテルー。非日常に飛び込む旅の疲れを癒し、心やすらぐべき「宿」を舞台としたホラー作品は今も昔も人の心を惹きつけ続ける。その空間に満ちているのは、恐ろしさ、不気味さ、残酷さ、美しさ、そして・・・?「逃亡不可能」な短編を一挙集結!珠玉の傑作アンソロジー。
(個人的な)点数7/10
旅館やホテルが舞台のミステリやホラーが大好きなので、これはたまらんかったです。
旅泊ホラーが全11編収録されているのですが、バリエーションが豊かなので飽きません。
曰く付きの部屋に泊まって怪現象に遭ったり、ホテルそのものが邪悪な意思を持っていたり、宿泊客の中に異形のものが紛れ込んでいたり・・・。
旅館かホテルか、客目線か従業員目線か、一口に旅泊ホラーと言えども、どこにスポットを当てるかで、印象も全然違うのです。
本作は全体的に、どこか懐かしいクラシカルな話が多く、眠れなくなるような怖い話はありません。しかし、「傑作選」と銘打っているだけあって、怖くはないものの、1つ1つの話に存在感があります。
その中から特に印象的だった3作を紹介します◎
「封印された旧館」 小池荘彦
ホテルスタッフたちが肝試しに行ったのは閉鎖されたホテルの旧館。その日から身の回りで怪現象が起こりはじめ、身近な人間が次々に死んでいく・・・。
よくある話ですが、強いて言うなら私はこの話が一番怖かったです。
ホラーにおいて「ここが怖い!」というポイントは人それぞれですが、私は①実害のある霊が出てくるものと、②辻褄の合わない現象が起こるホラーが苦手です。
①については誰だってそうですよね(笑)実害のない霊なんて、今時神話レベルかもしれない。
②は、説明するのが難しいんですが、ありえない現象よりも、辻褄の合わない現象のほうがずっと怖いんじゃないかって思うのです。
例えば高層ビルの窓がノックされるっていうのあるじゃないですか。これはもう100パーセント「ありえない」ことですよね。だからもちろん怖いんだけど、ありえなければありえないほど日常と切り離されていく。ポルターガイスト系のホラー映画が全然怖くないのも、「ありえない」が行き過ぎて、現実味を感じられないからかもしれません。
では、お母さんが「おやつよ~」とやってきて、お母さんの背丈からは考えられないくらい高い場所からノックが聞こえたらどうですか?お母さんのはずがないんだけれど、100パーセントありえないともいえない。この辻褄の合わない現象は、もはや高層ビルの窓を叩かれるよりも異常性を感じます。
長々と語りましたが、「封印された旧館」は全編の中で唯一①と②の基準を満たしていたので、怖い大賞に選びました。
「屍の宿」 福澤徹三
ある不倫中の男女が廃れた温泉宿を訪れる。部屋の天井には赤黒いしみが広がっており、掛け軸の裏からはお札が。曰くありげな旅館で起こる怪異とは・・・
古典的なお宿ホラーかと思いきや、「うわあ」と唸るオチでした。最後にがらりと印象が変わるところや、じゃらんネットで☆1をつけられそうなお宿の描写が好きでした。個人的には一番好みの話です。
「深夜の食欲」 恩田陸
ホテルボーイが、スイートルームへ夜食を届けにいくのだが、ワゴンの様子がおかしくて・・・?
インパクト大の異色ホラーです。真夜中に注文のはいった4人前のローストビーフを食堂から客室へ届けるまでのお話で、深夜のホテルの廊下が舞台。
何もないはずの廊下で、おんぼろワゴンの「ヘイスティングス」がはね上げたのは人間の爪で・・・。霊は一切でないのに、想像力を掻き立てられる怖さがあります。