㊳悪魔と警視庁 E・C・R・ロラック
▶あらすじ
濃霧に包まれた晩秋のロンドン。帰丁途中のマクドナルド首席警部は、深夜の街路で引ったくりから女性を救った後、車を警視庁に置いて帰宅した。翌日、彼は車の後部座席に、悪魔の装束をまとった刺殺死体を発見する。捜査に乗り出したマクドナルドは、同夜老オペラ歌手の車に、ナイフと「ファウストの劫罰」の楽譜が残されていたことを掴む。英国本格黄金期の傑作、本邦初訳。
(個人的な)点数 5/10
ミステリ界には個性の強い探偵や刑事がたくさんいます。
みなさんの推しはだれですか?
私は基本的に、探偵よりもワトソンを好きになりがちなんですが、探偵であれば、学生アリスシリーズの江神さん、京極堂シリーズの榎木津さん、開かずの扉シリーズの鳴海さんあたりが好きです。
彼らに対する「好き」は、公言できる「好き」=みんなと共有したい「好き」であり、つまりファンとしての「好き」です。
一方で、誰にも言わずに密かに楽しみたい「好き」もありますよね。それが私の場合、島田荘司の吉敷竹史刑事と、ロラックのマクドナルド首席警部なんです・・・!
マクドナルド首席警部について
まるでマクドナルドシリーズをすべて読んでいるかのような発言をしましたが、実は本作をいれてたった2作しか読んでいません。めちゃくちゃ新規で、自分でもびっくりです。
しかし、逆に言えば、最初に読んだ「ジョン・ブラウンの死体」がそれほど良かったということ。この1作で完全に心を掴まれてしまったということなのです。
「ジョン・ブラウンの死体」を読んだとき、紳士的な態度や滲み出る余裕、田舎との親和性の高さから、彼を60代のベテラン警部だと思っていたのですが、なんとまだ40代だった!
背が高くて痩せぎす、姿勢がよくスポーツ選手のような体格。寡黙で冷静、忍耐強く、論理的で客観的に物事を捉えられる。絵画や音楽にも造詣深く、知識が豊富で頭もよい。
絵に描いたようなインテリです。そもそも、ロラックの生み出したこの警部は、インテリ警察官の祖なのだとか。それまでインテリとは程遠い立場として描かれていた警察官を、主役の座に就かせるきっかけとなったシリーズなんだそうです。
しかし、彼の魅力はそこではありません。「ジョン・ブラウンの死体」では、危機に陥った友人を救うため、手段を選ばない行動をとるなど、スマートさとはかけ離れたアツい一面が。インテリでありながら、人情派なところが魅力なのです。
本作で、マクドナルドが、部下に対してあるクイズをだします。
【ある路上生活者が時間をかけて煙草の吸殻を拾い集め、新しい紙で巻いて立派な煙草を作っている。新しい煙草を一本作るには、平均して七本の吸殻が必要になる。ある朝、四十九本もの吸殻を見つけた彼はその吸い殻から何本の煙草を作ったか?】
論理的に考えれば、答えは七本です。
しかし、彼は路上生活者の立場に立って考えなければ、本当の答えは出ないと言います。
「きみは吸殻を七本ひろった。煙草を吸うのは、四十九本ひろうまでおあずけにするか?そんなことはしやしない。七本集まった時点で、その日の最初の一服としゃれこむさ。こうすると、吸い終わったときには吸殻が一本出来るし、それもちゃんととっておく。こうやって四十九本の吸殻から煙草を作ると、最後には吸殻が七本残る。だから正解は八本なんだ。刑事の仕事はこのクイズを解くのに似ている」
論理は絶対的ですが、それだけでは事件を解くことは出来ないんですね。
本作について
濃霧に包まれたロンドン、仮面舞踏会、メフィストフェレスの装飾が施された死体―妖しい雰囲気のなか、事件は始まります。
自分の車の後部座席に死体が遺棄されていたことから、マクドナルドは事件に乗り出すことに。関係者への聞き込みから糸口を探していくのですが、淡々と進んでいくため、盛り上がりに欠け、退屈に感じてしまいました・・・。犯人の計画も、かなり杜撰。
しかし、聞き込みを進めるにつれ、事件の印象が様変わりしていくのはおもしろかったです。