ミステリ亭 tama

当亭では、主にミステリ小説を蒐集しています。電話線が切断され、橋も落とされたようですので、お越しいただいた方はご自身で身をお守りください。

⑯出雲伝説7/8の殺人 島田荘司

▶あらすじ

山陰地方を走る六つのローカル線と大阪駅に、流れ着いた女性のバラバラ死体!なぜか首はついに発見されなかった。操作の結果、殺された女は死亡推定時刻に「出雲1号」に乗車していたらしい・・・。休暇で故郷に帰っていた捜査一課の吉敷竹史は、偶然にもこの狂気の犯罪の渦中に・・・。好評、本格トラベル・ミステリーの力作!

 

 

 

 

ネタバレ感想

時刻表トリックは眺めているだけじゃ解けない。

 ”もう一つの占星術殺人事件と言われている本作だが、メインは時刻表トリックだ。

正直、時刻表トリック=地味なイメージがあったけれど、この作品を読んでなかなか奥深いことに気づいた。

 

時刻表トリック好きの方には「何を当たり前のこと言ってんだ」と思われるかもしれないが、時刻表トリックって時刻表の数字を眺めているだけでは解けないんだなあ。

発着時間だけでなく、車両数やどのホームに止まるかなんかも重要な要素だし、電車が交差したり並走したり連結したりすることで様々な化学反応が起こるのがおもしろい。

吉敷さんが「出雲1号」と「但馬2号」に実際に乗車してみたことでトリックの欠陥が見えた時は興奮した。

 胴体だけ別の方法で遺棄するという盲点をついたトリックも見事だった。

 

しかし、犯人の心理がいまいち分からないというか、首を隠すくらいなら死体をばら撒くなんて派手なことしなきゃよかったのにとは思ってしまった(笑)

また、胴体の遺棄の方法が分かってから犯人逮捕までが少し駆け足に感じたかも?

 

 

*ちなみに、この作品の中でも触れられているのだが、時刻表トリックは日本特有のものらしい。

確かに海外では時間通りに電車が来ないもんな。

そう考えてみると、時刻表トリックほど日本人らしいトリックはないな。

 

 

吉敷シリーズの魅力は推理の過程がみえるところ

御手洗シリーズほどではないにしても、吉敷シリーズも奇抜で不可思議な事件が多い。

そんな奇想天外な事件をどう解体していくか――その過程が”みえる”のが吉敷シリーズのおもしろいところだと私は思う。

 

御手洗シリーズでは、推理の過程がほとんど描かれない。

視点が石岡くんや第三者だからということもあるが、「ここが不自然だ」とか「ここがどうだから引っかかってる」とか、御手洗さんはいちいち教えてくれない。

(それはそれで、読者の予想しなかった突拍子のない真相が最後にどかんと明らかになったりするから楽しい。)

 

一方で、吉敷シリーズは吉敷さん視点で話が進むから、当然彼がどのように考えているのかが分かる。彼がどこで引っ掛かり、何に気づいて、それらをどう組み立てるか――真相に至るまでの試行錯誤が描かれているので、一緒に謎解きをしているような気分になれる。

 

要するに、御手洗シリーズは最後に明かされる衝撃の真相を、吉敷シリーズは真相に至るまでの過程を楽しめるんじゃないだろうか。