⑳依頼人は死んだ 若竹七海
▶あらすじ
念願の詩集を出版し順風満帆だった婚約者の突然の自殺に苦しむ相場みのり。検診を受けていないのに送られてきたガンの通知に当惑する佐藤まどか。決して手加減をしない女探偵・葉村晶に持ち込まれる様々な事件の真相は、少し切なく、少しこわい。構成の妙、トリッキーなエンディングが鮮やかな連作短編集。
▶ネタバレ感想
葉村シリーズっていやあな気持ちになるんです。
もう読みたくないって思う。
それなのに、しばらく経つと手をのばしちゃう中毒性がある。
ショッキングな描写とか、ごみくずみたいな最低人間が出てくるわけじゃない。
ありふれた小さな悪意のお話。読み進めていくごとに、毒素がじわじわ沁みてくる感じです。物語の中に良心ってものが皆無なので容赦がない。最初のお話からいきなり葉村さんの友人が殺害されてます。
今回の作品で一番いやあな気分になったのは、「詩人の死」かなあ。
詩集が5千部売り上げ大ヒットして、詩人としてみとめられ幸せ絶頂だったはずの男が、突然自殺してしまう。彼が死の間際に訪れていた実家で葉村が見たのは、大量にまとめ買いされた詩集の山だった・・・。
これはめちゃくちゃこわかった。読まれることもなくただ売り上げのためにまとめ買いされた詩集の山をみて彼が自殺した気持ちがすごく分かったというか、自分が同じ目にあったら自殺しちゃうなと思わせるほどの仕打ちだなあ。
「わたしの調査に手加減はない」もいやな話だったな。
子どもが産めない体で、夫に離婚され精神を病んでいた友人に、赤ちゃんの写真入りの年賀状を送りつける悪意ったら。
「詩人の死」でも言えることだが、それで彼女が自殺をしても、年賀状を送った女は罪にはならないんだよな。
この世界には自殺の数だけその要因をつくった人間がいるんだな。
彼らは裁かれない。中には罪悪感で苦しんでいる人もいるだろうけど、その一方で、自分が原因をつくったとはつゆほどにも気づいていない無神経な人間もいるんだろう。
普通に暮らしている人たちの中に、どれくらい裁かれない殺人者がいるんだろうか。
・・・ああだめだ人間不信になりそう。こういう副作用が起こるから葉村シリーズは苦手だ。(といってまた凝りもせず手をだしちゃうんだろうなあ)