ミステリ亭 tama

当亭では、主にミステリ小説を蒐集しています。電話線が切断され、橋も落とされたようですので、お越しいただいた方はご自身で身をお守りください。

⑫魔神の遊戯 島田荘司

▶あらすじ

ネス湖畔の寒村ティモシーで、突如として発生した凄惨な連続バラバラ殺人。空にオーロラが踊り、魔神の咆哮が大地を揺るがすなか、ひきちぎられた人体の一部が、ひとつ、またひとつと発見される。犯人は旧約聖書に描かれた殺戮の魔神なのか?名探偵・御手洗潔の推理がもたらす衝撃と感動・・・。ロマン溢れる本格ミステリー巨篇。

 

 島田さんの作品の魅力は何と言ってもスケールの大きさ!

 謎を解く御手洗さんもすごいけど、謎を作ってる島田さんってもっとすごいよなといつも感心してしまう。風呂敷を広げすぎちゃって、たまにファンタジーの域にはいるんだけど、それでも普通の人間による犯行なのだからすごい。

 

あらすじを見ると、魔神が大地を揺るがすとか、ひきちぎられた人体の一部とか、今回も到底人間技とは思われないが、安心してください。犯人は普通の人間です。

 

また、スケールの大きさだけなく、サイドストーリーがおもしろいのも魅力である。特に御手洗さんが日本を去ってからの事件は、その国々での伝説とか歴史的事件をベースにしていることが多く勉強になるし、島田さんがチョイスする題材がみんな私の好みなんだよな。

今回は旧約聖書出エジプト記がベースになっていて、これまた私好み。

     

 

 

 

 

 

▶ネタバレ感想

プードルの体と縫合された生首が発見されるところから事件は始まる。最初からアクセル全開で、他にも時計台から見下ろす生首とか、消防車の上に遺棄された胴体とか、かなり猟奇的なんだけれども、怖さや緊張感はそんなにない。むしろ死体が次々出てきすぎて飽食気味である(笑)

 

ベースとなっている旧約聖書の魔神だけど、これってほんとに聖書に描かれてるのかな?このエジプト人を引きちぎってる魔神ってヤーハウェの化身なわけで、ユダヤ人のロドニーがヤーハウェを【復讐の神】とか【暴力的】と描いているのに疑問を感じた。イスラエルの民は、虐げられてきた歴史から、例え凶暴であっても頼りになる神を必要としていたとロドニーは言うけれど、なるほどそういう考えもあるのか。

 

 

〝ミタライ教授〟が偽者だというのは何となく気づいた。なぜ分かったのかというと私は御手洗ファンだからだ。御手洗さんがあんなに存在感薄いわけないし、また犠牲者が次々出るのを止められないわけがないからだ(笑)現に、本物御手洗は村にやってきてすぐにリンダ殺害を食い止めている。(さすが!)

 

しかしそれにしてもジョージって誰やねんとはなった(笑)ほかの作品に出てる人なんかなあ。この人一見知識人みたいに感じるけど、一人を殺すためだけに関係ない人たちを世にもおぞましいやり方で葬っていてかなりイカれている。

ティモシー村に本物の御手洗さんを知る人はいないから、名前だけ騙って素の自分でよかったはずなのに、御手洗さんの話し方や歩き方まで真似して筋金入りのストーカーだな。

 

 

最後、そのストーカーに「ぼくはどこを失敗した?どこが君と違っていた?」と聞かれて「特にないな。でもひとつだけ言うと…ぼくは他人の名は騙らない」って言い切る御手洗さんがかっこよかった。