ミステリ亭 tama

当亭では、主にミステリ小説を蒐集しています。電話線が切断され、橋も落とされたようですので、お越しいただいた方はご自身で身をお守りください。

⑮狩人の悪夢 有栖川有栖

▶あらすじ

人気ホラー小説家・白布施に誘われ、ミステリ作家の有栖川有栖は、京都・亀岡にある彼の家、「夢守荘」を訪問することに。そこには「眠ると必ず悪夢を見る部屋」があるという。しかし有栖が部屋に泊まった翌日、白布施のアシスタントがかつて住んでいた家で、右手首のない女性の死体が発見されて・・・・。「俺が撃つのは、人間だけだ」臨床犯罪学者火村英生と相棒のミステリ作家アリスが、悪夢のような事件の謎を解く傑作長編!!

 

 

 

▶ネタバレ感想

実は悪夢はあまり関係ない??

あらすじにある“必ず悪夢を見る部屋”というのが気になって読み始めたのだが、ほとんど関係なかった(笑)

悪夢がキーワードな割には、あまり事件の本筋と絡んでこない・・・?

悪夢と殺人事件というおどろおどろしい何かを勝手に期待していたというのもあるが、全体として地味目かもしれない。

作者の有栖川さんが、探偵役のあり方とか事件の捜査を出来るだけリアルに描こうとしているのは感じるが、その分あっと驚くような展開がなく、盛り上がりに欠けてしまっている気もする。

 

しかし、私の感じる火村シリーズの魅力は現実的×ロジカルなところである。今回も手首が切り落とされていた点から犯人を絞りこむ推理はさすがだなと思った。

先ほど退屈になり気味だと言ったが、リアルに忠実な分、火村の推理は常に地に足がついており、安定感がある。

完全なる妄想だが、ミステリ作家たちが実際に事件に巻き込まれ、それがクローズド状態で、自分たちで推理しなくてはならなくなったとき、名探偵ぶりを発揮するのは有栖川さんな気がする(笑)

 

 

 

アリスはワトソンの鑑

古今東西のワトソンくんたち、メジャーなところで御手洗シリーズの石岡君、京極堂シリーズの関口くん、メルカトルシリーズの美袋くんなど。

ワトソン力にどういうものを求めるかは人それぞれだが、アリスってワトソンとしてほんと優秀だよなあと思う。

探偵に依存しすぎておらず、むしろ自立しており、といって探偵を手玉にとっているかというと、火村の能力を誰よりも買い認めている。また事件が起こればホームズとワトソンという関係だが、それ以外では立場は同等だ。友として、時には強い言葉で注意したりもする。

この作品においても一人で考えがちな火村に対し「疑問が生じたり仮説を立てたりするたびに、助手に披露して意見を求めるべきやろう。そうでなかったら俺の存在理由がないで」と言い切っている。

ワトソンの鑑じゃなかろうか。まあアリス自身がミステリマニアであり、ワトソンとホームズの関係に造詣が深いからかもしれないが。

強いてアリスの欠点をあげるなら、少々あおり癖があるところだろうか(笑)