⑬偽のデュー警部 ピーター・ラヴセイ
▶あらすじ
花屋の店員の恋の相手は歯科医だった。歯科医の妻は女優で、彼女は喜劇王チャップリンを頼ってアメリカに渡ると言い出した。二人の恋を実らせるには、この妻を豪華客船上から海へ突き落すことだ。偽名を使い、完全犯罪を胸に乗船した二人だったが・・・やがて起こった意外な殺人に、船上に登場した偽の鳴警部が調査を開始する。英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー受賞。本格ミステリ黄金時代の香り豊かな新趣向の傑作!
▶ネタバレ感想
犯人が探偵役を演じることになる滑稽な展開。
本来クリッペン博士の立場であった彼が、デュー警部を演じることになるなんて。
別人ですよって言えばいいのに、つい引き受けちゃうウォルター。
慣れない事情聴取をするたびに、相手に「デュー警部大丈夫か・・・?」と心配されてるが、本人はちょっとうまくやれているつもりだからおもしろい。
船上で進行する群集劇。
群集劇だけあって、個性的な登場人物たち。
どの人物のパートもおもしろいし、切り替えのテンポがよいので飽きずに読める。
一見関係なさそうな人たちが思いもよらぬ糸で繋がっている。
なんていうか、みんな能天気というか、気がいいんだな。
だから人間関係がドロドロしておらず、殺人事件が起こっても、緊張感はなく、どこか喜劇をみているようである。
誰が犯人でも意外性はあったんだろうけど、その中でも特に"寡黙でちょっと空気の読めないお父さん”という感じのリヴィングが犯人だったのは意外。
何を考えているのか分からないウォルター。
そんな中で、ウォルターって、確かに害のない善人なんだけど、何考えてるか全く分からないよね。
ウォルターは、アルマに対してリディアを殺したと嘘をついていたわけど、一体どんな気持ちだったんだろう?
普通に計画を中止するか、素直にアルマに事情を話せばよかったのに、彼女にリディアの振りをし続けるように指示して、もし本当にリディアが船上にいたらどう収集をつけるつもりだったんだろうか。
何とも楽観的?というか、小心のわりにはすることが大胆でよく分からない。
また、リディアの服を着たアルマの肩をウォルターが掴んだシーン。アルマは彼が殺した妻と同じ格好をしている自分をみて錯乱したからだと思っていたが、実際に、ウォルターはリディアを見つけられずにいたところだから、もしかしたらアルマをリディアと間違えて殺してしまっていたのかもしれない。アルマがこの時のウォルターに恐怖を感じたのは、彼から殺意を感じたからなのかも。
それにしてもリディアと対面した彼は最後何を考えているんだろうな。やっぱり彼女を殺そうと思ってるんだろうか。それとも、デュー警部の体験を通して自分に自信がつき、今の自分なら彼女とやっていけると思ってるんだろうか。あのリディアが自分を見直してるほどなのだから。
しかし、アルマが悟ったように、女というのは男を勝手に偶像視しておきながら、何かのきっかけで彼らがひどく退屈なことに気づいてしまうのだ。
夢から覚めたリディアとウォルターの結末が気になるところ。