ミステリ亭 tama

当亭では、主にミステリ小説を蒐集しています。電話線が切断され、橋も落とされたようですので、お越しいただいた方はご自身で身をお守りください。

⑰見えないグリーン ジョン・スラデック

▶あらすじ

ミステリ好きの集まり<素人探偵会>が35年ぶりに再会を期した途端、メンバーのひとりである老人が不審な死を遂げた。現場はトイレという密室―名探偵サッカレイ・フィンの推理を嘲笑うかのように、姿なき殺人鬼がメンバーたちを次々と襲う。あらゆるジャンルとタブーを超越したSF・ミステリ界随一の奇才が密室不可能犯罪に真っ向勝負!本格ファンをうならせる奇想天外なトリックとは?

 

 

 

 

ネタバレ感想

荒っぽい部分もあるが技巧が光る

正直、トイレの中でゴムボードを膨らまして殺したという第1の事件のトリックはバカミスすれすれだし、犯人の行動が高いリスクを伴う割に必要性が乏しく、はたしてそんな危険な橋を渡る必要はあったのかと疑問の余地がある。

 

しかし、その中でもなるほどなあと唸らせる技巧も多くあった。

 

例えば、ダンビが殺される間際に犯人に対し発した「お前はいったい誰だ?」という問いかけ。この一言から犯人=外部犯説に傾けておいて、実は彼が全盲(もしくは半盲)だったという種明かしがうまい。

 

また、犯人がストークス大佐を殺さなければならなかった理由もおもしろい。

犯人が<素人探偵会>のメンバーであるなら、大佐と顔を合わせないためには同窓会に出席しなかったらいいだけなのだ。何も殺す必要はない。

しかし、会場に自分の写真が大量に飾ってあるとなったら話は別だ。自分が出席しなくても、ストークス大佐に正体がばれてしまう。

シンプルなのだが、なかなか盲点をついており見事だった。

 

 

第2の事件は納得いかない

とはいえ、第2の事件(ダンビ殺し)で納得できない点もある。

それはラティマーが、マーティンと同時に死体を発見したと嘘をついていたことだ。

ラティマーからすれば、ほんの数十秒の差であり、また<素人探偵会>に何の関係もないマーティンが犯人だとつゆほども疑わなかったのだろうが、この証言がある限り、読者からすればマーティンは完璧なアリバイを持つことになってしまうのだ!

 

しかも、マーティンもマーティンである。

まず、こんなイチかバチかの状況で、ダンビを殺さなくてもと思ってしまった。このタイミングじゃなくてもいいのだし、そもそも殺すのは彼じゃなくても良かったはずだ。

また、ラティマーがこの事実喋ってしまったら、瞬く間に容疑者になってしまうのだから、ラティマーの口を封じようと思わなかったのだろうか?

 

第2の事件については大いに疑問がある。

しかし、全体的にミスリードが巧みで、最後まで犯人が絞れずおもしろく読めた。