⑥人間の顔は食べづらい 白井智之
*ネタバレを含みます。
食用クローン人間が売買される時代のSFミステリ。
新型コロナウイルスが流行り、家畜の感染により肉食をやめた人間たち。その結果、子どもの危機的な栄養不足という社会問題が起こり、その解決策として可決された法案が食人法である。
しかし、クローン人間は高額なため、買えるのは一部の富裕層のみ。金持ちの趣味の悪い娯楽としか機能していないから不愉快だ。
また主人公?でもある柴田が本当にクズすぎる。チー坊というクローン人間を地下室で違法に飼っているのだが、暴力を振るうのは日常茶飯事。さらにわざとなのか無神経なのかは不明だが、チー坊に本や新聞を与えるという鬼畜の所業。
結局、知識を与えるという行動が裏目に出て、チー坊の策略により破滅するから因果応報ではあるのだが。
倫理的にも、暴力描写的にも、不愉快なミステリだが、あらゆるパターンの犯人説と、それを覆していく伏線はよくできているなと思った。
特に、手書きの脅迫状が良かった。唯一チー坊の計算になかった富士山クローンのミス。それが富士山犯人説を否定するキーでありながら、富士山クローン説を裏付けるキーでもあるというのがおもしろい。
しかし個人的に、安楽椅子探偵ならぬ「安楽椅子犯人」系はどうしても苦手だ。安楽椅子犯人が考える筋書きは完璧で複雑なことが多いから、読者としては歯が立たなすぎる。それゆえに、真相が明かされた後も現実味がないというか実感がわかず、本当にそんなにうまくいくのかな?といつも思ってしまう。