ミステリ亭 tama

当亭では、主にミステリ小説を蒐集しています。電話線が切断され、橋も落とされたようですので、お越しいただいた方はご自身で身をお守りください。

⑪孤島の来訪者 方丈貴恵

*ネタバレです。

 

「時空旅行者の砂時計」の続編で、今回は加茂が救った竜泉一族の子孫が主人公。

前回はタイムトラベル×ミステリということで、まだ馴染みのある組み合わせだったが、今回の特殊設定はかなり攻めている。

 

喰らった生き物に擬態する能力を持つマレヒトという謎の生命体。孤島に集まった番組制作会社の一団の一人が猫に擬態したマレヒトに殺されたことを皮切りに、次々と殺人事件が起こっていく。誰がマレヒトに擬態されているのかを探っていくストーリー。

 

 

・・・いやあ、これは「屍人荘の殺人」ばりの特殊設定(笑)

 

黒猫が犯人だと言い出したときは急すぎる方向転換に振り落とされてしまったけれど、読者への挑戦状付きなだけあって、ミステリとしてはちゃんとフェアである。マレヒトの出来ること、出来ないことが明文化されてあるので、後は状況と照らし合わせてそれをどう組み合わせていくかだけ。

 

今回も相当粘りました。「時空旅行者の砂時計」より謎レベルははるかに難しい。何度も読み返して、

・海野が仮死状態だったこと。

・西城が赤を認識できていないこと

までは分かった。

しかし、木京殺しについては、佑樹のダミーの推理通り、古家に擬態したマレヒトが殺したのだと途中まで思っていた。それ以外の方法はないように思えたが、マレヒトの独白に人間たちに混じって朝食の準備をしているという描写があり、この仮説は崩れ去ってしまった。

 

これ、木京殺しのトリックがほんとにうまい。状況はシンプルで、一見不可能犯罪のように思える。しかし、よく考えると見えてくる古家=マレヒトという可能性。このミスリードから半分真実にたどり着けるのがミソで、古家=マレヒト説に立てば自然と海野=マレヒト説が解けるようになっている。それにより古家=マレヒト説の真実味は増すが、それでは小さな不自然が多く残るのだ。(上記の通りマレヒトの告白とも矛盾するし、発見された時、古家の体は冷たかった。)

 

タラ共犯説は通常なら考えられる可能性だが、古家=マレヒト説というダミーが用意されていることで盲点になる。タラ共犯説=マレヒト2体説をとることで、古家=マレヒト説では未消化だった伏線(45年前に見つかった身元不明の死体、拭かれたスニーカー、西城の障害など)が、すべて回収されていくのは見事だ。マレヒトが1体であると思い込んでいる以上、絶対に見えてこない可能性で、これには本当に出し抜かれた。

 

 

 

「時空旅行者の砂時計」と続けて読んでみて、この作者のすごいと思ったところは、事件の状況がかなり限定的かつシンプルで、下手すれば一発で犯人が分かってしまうようなものでありながら、それでも読者を出し抜くトリックのレベルの高さである。

 

今後の作品も楽しみだし、「孤島の来訪者」はゲーム的で、視覚的にも楽しめそうなので、数年後には映画化されている気がする(笑)