①ナイン・テイラーズ ドロシー・L・セイヤーズ
*ネタバレを含みます。
2021年の初読みはナイン・テイラーズ。
意図せず大晦日から読み始めたけれど、この作品を読むには、365日中一番ふさわしい日だった。
この作品の主人公である鐘については、説明があるものの縁がなさすぎて、仕組みや歴史などいまいち分からなかった。挿絵があれば分かりやすかったかもしれない。
だけど、縛られた人間が、9時間もの間(いつこと切れたは不明だが)鐘の轟音のもとに放置されていたらどうなるかは想像に容易い。拷問でも音楽を大音量で聞かせるというのがあるけれど、それのレベルマックスである。
この作品は読み終えたあと、どこか薄気味悪さを残す。この落ち着かない薄気味悪さはきっと、悲劇のショッキングさと、村の穏やかな雰囲気とのギャップが生んでいるのだと思う。
舞台となる村には悪い人がほとんど出てこない。(そもそも、この事件に殺人犯はいないわけだから、悪意は実際に存在しない。)みんな気のいい正直もので信仰深く、田舎者特有のしゃべり方も何だかかわいい。また、死体が見つかって以降もあまり緊張感は感じられない。
そんなのどかな村が舞台であることで、この悲劇は、底知れない溝を覗くような薄気味悪さを生む。
ミステリにおいて、舞台設計というのは割と重要なファクターかもしれない。悪意の霧散する場所で血みどろな殺人が行われても、それはなるべくしてなったという感じがするが、このように舞台と起こった出来事との間にギャップがあればあるほど、救いようのなさは増し、悲劇は悲劇たりうる。