ミステリ亭 tama

当亭では、主にミステリ小説を蒐集しています。電話線が切断され、橋も落とされたようですので、お越しいただいた方はご自身で身をお守りください。

⑩ジョン・ブラウンの死体 E・C・R・ロラック

*ネタバレです。

 

全く前知識を持たずに読んだけれど、これはおすすめ!

 

社会的地位が低く忌み嫌われる浮浪者のありえない証言を調査し、隠された殺人を暴くという設定が何だか好きだ。

ブラウンが遭遇した死体遺棄事件と、人気作家の剽窃疑惑事件がきれいに繋がっていくプロットも見事。

 

海外ミステリ、しかもイギリスの古典とくれば読みにくいんじゃないの?と思いきや、驚くほどするする読める。事件自体はどちらかといえば地味で、探偵役のマクドナルド警部が聞き込みをしながら真相を追うという退屈しそうなストーリーだが、登場人物の一人が犯人に襲われたり、思いもがけない人が途中で登場したり、ストーリーに起伏があるのでダレない。特に終盤の、ナイジェルの家で3人の男が鉢合わせてしまうドタバタ劇はハラハラした。

イギリスの田舎町の情景、そして朴訥として正直な村の人たちの描写もよい。(この作者は情景描写を得意とし、特にヴィレッジや地方を描くのが上手らしい)

 

 

また登場人物たちがみんな魅力的である。

敏腕ジャーナリストのヴァ―ノンや、第一印象が相当ひどいモールトン嬢、どこか胡散臭さを感じさせるルデル・・・そして何よりマクドナルド警部がかっこいい!!

渋いんですよね、彼は。物腰が柔らかく紳士的で、人の話を丁寧に聞く。せかせかせず急がば回れタイプ。相手に安心感を与え、頼りがいがある。それでいて正義感が強く、仲間思いで友人がピンチに陥いればどんな実力行使も辞さない熱い一面も。

その貫禄から白髪の混じった老紳士だと思っていたが、まだ44歳なんですね!

 

私の大好きな吉敷警部と同じ匂いがする(笑)

 

しかもマクドナルド警部は非常に論理的で現実的。様々な仮説を立て、罪を犯した人間がどのような行動をするかを重点に仮説を絞っていく。推理の過程がほかのミステリよりも丁寧だ。

 

そんなマクドナルド警部の大親友ヴァ―ノンも熱い男である。

彼の「車輪を回し続けていたのは、老浮浪者の魂だったんだ」という最後の台詞がとても好きだ。

寒さをしのぐためあちこちの小屋を拝借しては家主に追い出され、空腹を紛らわせるため小石を舐めながら暗い森の中を歩いていくジョン・ブラウンの孤独に思いをはせるヴァ―ノン。彼はブラウン事件とは別の剽窃事件を追いながらも、ずっとブラウンのことが心に引っ掛かっていたのだろう。そんな彼だからこそ出た最後の言葉にじんわりと胸が温かくなった。

 

 マクドナルド警部シリーズはほかにも読んでみたいが、作数は多いものの翻訳されているのは数冊らしい。とりあえず、「悪魔と警視庁」と「鐘楼の蝙蝠」を読んでみたい。