②あいにくの雨で 麻耶雄嵩
*ネタバレを含みます。
解説で千街さんが書かれているように、麻耶雄嵩は破壊者だ。「翼ある闇」や「夏と冬の奏鳴曲」でこてんぱんにされた読者は分かると思う(笑)
千街さん曰く、ミステリというのは事件の解決とともに救済がもたらされ、非日常から日常に戻ってこられるのだが、麻耶雄嵩は強烈な真相を提示することで、登場人物たちの世界を破壊してしまうのだそうだ。
しかし、この作品は、世界を壊されるような衝撃はない。
夏と冬の奏鳴曲などが破壊される物語だとするならば、この作品は腐敗していく物語かもしれない。
というのも、この作品にはピリオドが打たれていないからだ。
ミステリにおいて、ピリオドというのは登場人物にとっても、読者にとっても必要なものだと私は思う。
崖に追い詰められた犯人が自白すること、遺書を残して自殺すること、逆上して探偵に襲い掛かること。非日常を日常に戻すために必要なプロセス。
しかし、この作品ではピリオドは打たれない。真相を暴かれた獅子丸は何事もなかったかのように受験勉強の日々に戻っていく。
その結果、烏兎は獅子丸に対し、恐怖と不信感を抱きながら、しかしその一方で、本当に獅子丸が殺したのか、獅子丸の話のどこまでが本当なのか、という疑いに悶々としながら日々を送ることになるだろう。
これは破壊でない。二人の友情や青春は、これから長い時間をかけて腐敗していくのだ。
*それにしても烏兎にとって、これほど残酷な終わり方はあるだろうか。やっぱり麻耶雄嵩は主人公に対し、程度の差こそあれ加虐的だ。