㉓だれもがポオを愛していた 平石貴樹
▶あらすじ
エドガー・アラン・ポオ終焉の地、米国ボルティモアの郊外で日系人兄妹が住む館が爆破され、泥沼に潰えた。テレビ局にかかった予告電話の通り「アッシャー家の崩壊」さながらに始まった事件は、ほどなく「べレニス」、「黒猫」の見立てに発展、捜査は混迷を呈していく・・・・。オーギュスト・デュパン直系の名探偵がクイーンばりの論理で謎を解く、オールタイムベスト級本格ミステリ。
▶ネタバレ感想
クイーンの血を引く隠れた傑作!
長年ミステリにアンテナを張っていたわたしですが、恥ずかしながらこのミステリの存在は最近知った。
ポオとクイーンを堪能できる一冊、つまり、ミステリ好きを語るには落としてはならない作品だった!!
本作で起こる殺人事件では、「アッシャー家の崩壊」や「黒猫」のあのおどろおどろしくそれでいて幻想的な、ポオの世界をもう一度のぞかせてくれる。
一方で、解決編では、クイーンの系譜をひいたロジカルな推理で驚かせてくれた。
ドアの錠が壊れた建物の窓が割れている―ただ、これだけで、ニッキはこの事件に別々の人物が関わっていることを導き出す。動機や人間関係に左右されない「即物的推理」はクイーンのエジプト十字架の秘密を彷彿とさせる。
ポオの雰囲気をまとった不可思議な事件が、たった5ページほどの推理(=論理)で解体される様は美しい。
エピローグでのもう一つの推理
この作品、本編だけでも十分楽しめるのだが、エピローグで書かれるアッシャー家の崩壊の考察が非常におもしろい。
呪われた館とされるアッシャー家。死んだはずの妹マドラインが嵐の夜に棺から抜け出て屋敷を徘徊し、兄の前に現れる。兄は恐怖で死んでしまい、アッシャー家は崩壊し沼に沈んでいく・・・という怪奇小説なのだが、実はあれは、語り手の「私」とマドラインの共謀犯罪だったのではないかというのだ。
考察で指摘されて初めて気づくのだが、確かに「アッシャー家の崩壊」には不自然な箇所がいくつかある。
まさか幻想怪奇小説の代名詞ともいえるアッシャー家が、実は人為的な犯罪であり、犯人による倒叙の物語だったとは。
例えポオが意図していなかったとしても、この考察は読者から彼への最高の贈り物のような気がするな。