ミステリ亭 tama

当亭では、主にミステリ小説を蒐集しています。電話線が切断され、橋も落とされたようですので、お越しいただいた方はご自身で身をお守りください。

③キングを探せ 法月綸太郎

*ネタバレを含みます。

 

 

タイトルが秀逸である。この作品はタイトル自体にトラップが仕掛けられているのだ。

 

最初に犯人視点で計画のあらましを描くことで、読者はある程度の真相をあらかじめ知ることになる。しかし、りさぴょんとカネゴンの対象(殺してほしい相手)は明示されておらず自分で考えなくてはいけない。

この時点では、JとX(としておく)の対象は、J=りさぴょん・X=カネゴンでもJ=カネゴン・X=りさぴょんどちらでも当てはまる。それが確定するのは、3番目に殺されたジョウシマがりさぴょんの兄だと分かったときだ。この時、残りのカードをKだと思い込んでいると、当然ジョウシマはJであるから、J=りさぴょん・K=カネゴンとなる。しかし、実際はジョウシマはJではなくジョーカー(JO)だったため、J=カネゴン・JO=りさぴょんが正しい。

 

この勘違いを意図的に生むためには、残りのカードがKであると読者に思い込ませることが必要だ。例えば、序盤でりさぴょんが殺す相手を引くときに出てくる「王様の絵」という描写。また、残りのカードがA・J・Qとアルファベットが選ばれているので、当然残りはK(キング)だろうという綸太郎の推理。いくつかミスリードはあるのだが、一番大きなミスリードはタイトルだ。読者は、1ページ目を開く前から無意識にキングの存在が刷り込まれているのである。(綸太郎は途中までキングを追っていたわけだから、タイトル詐欺にはならない)

 

計画のあらましを知っているはずの読者は、探偵よりもはるかに真相に近い場所にいたはずなのに、タイトルのトラップのせいで綸太郎と同じ誤った道を進むことになるのだ。