ミステリ亭 tama

当亭では、主にミステリ小説を蒐集しています。電話線が切断され、橋も落とされたようですので、お越しいただいた方はご自身で身をお守りください。

④ラグナロク洞 霧舎巧

*ネタバレを含みます。

 

お気に入りの<あかずの扉>研究会シリーズ3作目。

このシリーズは、鳴海さんと後動さんと2人の探偵が出てくるが、私は鳴海さん推しだ。

作中でカケルが「今の鳴海さんの推理は―(省略)―決して瑕疵のない唯一無二の回答というわけではない。―(省略)―だが、それを言いきってしまえるのが鳴海さんだし、そういうはったりにも似た推理が見事に的中してしまう人物こそが、名探偵なのだとぼくは思う」と鳴海さんを評していた。推理力では後動さんのほうが上なのかもしれないが、私はカケルと同様に、鳴海さんの名探偵であろうとする姿勢、名探偵の誇りを持っているところが好きだ。

 

今回の作品は、館の仕掛け、密室、ミッシングリンク、ダイイングメッセージとガジェットがふんだんに詰め込まれている。(しかしこの点逆に言えば、ミステリ慣れしていない人にとっては飽食気味になるかもしれない。)また、これは前2作にも言えることだが、伏線が非常に細やかに張り巡らされている。

鳴海さんのダイイングメッセージ講義もおもしろい。これはあらゆる作品で指摘されていることだが、ダイイングメッセージほど機能性のない遺留品はない。たとえ、被害者が正しくダイイングメッセージを残したのだとしても、捜査陣から見れば、被害者以外のものが残した可能性、被害者が真犯人を誤認している可能性などを考慮しなければならないのだ。

 

ところで、この作品で、1つ未消化な部分がある。

それは、犯人はカウントダウン説を意識していたのかということだ。

 

カウントダウン説は、鳴海さんが唱えたものであり、最後まで犯人はそれを肯定も否定もしてない。

 

後動さんも、「名前に隠されたキリスト教のワード」という新たなミッシングリンクを明らかにしたものの、カウントダウン説を否定している描写はない。

しかし、後動さんの場合、早乙女教授が殺された理由を、たまたま、秘密の経路上にいたからだと述べている。早乙女教授の殺害が犯人にとって意図しなかったものであるならば、犯人は少なくとも早乙女教授を殺すまでは、カウントダウン説を意識していなかったはずである。

 

しかし、犯人がカウントダウン説を意識していなかったのならば、日色さんの部屋に残された六道の玉は何だったのか。カウントダウン説に基づけば、6を示すものとして持ち込まれたということになるが、逆に言えば、カウントダウン以外の理由で六道の玉を置く必要はない。日色さんは喉を切られて死んでいるから、凶器でもない。

 

では、早乙女教授殺害後にカウントダウン説を思いつき、後から日色さんの部屋に持ち込んだのか。否、玉が日色さんの死体と発見されている以上それはありえない。

 

となると、やはり犯人はカウントダウン説を意識していたのだろうか。しかし、私はそうは思えない。

犯人が本来殺したかった相手は、八十島さん、奈々ちゃん、丸谷老人、三田さん、日色さんの5人。そのうち日色さんを除く4人は、8,7,4,3に該当する。数字を含まない日色さんの死体のそばには六道の玉を転がし6を演出する。すると、足りない数字は5と2と1だ。

(5と2と1を埋めるため関係のない人物を3人も殺すというのは現実味がなく引っかかるが、その点鳴海さんは、殺したい人数がカモフラージュの人数より多ければ実行されうると述べている。その意見に則れば、今回、殺したい人物:カモフラージュは4:3なのでギリギリありだとしよう。)

 

そこで、早乙女教授を「五月女教授」だと勘違いしていたことから5、苗字が大根=ONEだったアンドリューを1として組み込もうと考えたのだとしても、2はどうするつもりだったのか。そこの描写は特にない。

結果的に、2は文恵さんになりカウントダウンは完成したわけだが、当然、骨折させてまで庇った姉を殺すつもりだったはずがない。

 

また、犯人が最初からカウントダウン説を意識していたなら、犯人の行動に矛盾が生じる。

早乙女教授を5として組み込んでいたのなら、犯人は一度目の地下への降下の際に早乙女教授を殺しておかなければならない。

というのも、犯人は日色さんを殺すため地下に降りた際に、秘密の通路の真下に5番目のターゲットである早乙女教授を目撃している。

しかし、犯人は早乙女教授を眠らせ、日色さんだけを殺害し、一度地上へ戻り、翌日、再度地下に降りてきて早乙女教授を殺害している。

犯人が、早乙女教授をはじめからカウントダウンに組み込んでいたのなら一度目の降下の際に殺しておくはずだ。翌日殺すというのは非効率だし、何度も地下に降りることはリスクが高い。また、日色さんは喉を切り裂かれていたことから、犯人はナイフを地上から持参していたはずであり、手元に凶器はあったはずだ。抵抗を恐れたならば、それこそ睡眠薬で眠らせておいて殺せばいいのだ。

殺す順番にこだわっていたのだろうか。しかし、これから6の日色さんを殺すつもりだったのだから、同日に殺しても問題ないはずだ。

 

では、日色さんを殺して、早乙女教授を眠らせたまま地上に戻り、そこで初めてカウントダウン説を思いついたのだろうか。「あの教授は確か五月女だったはず、5として殺してしまおう」と考えたのだろうか。

しかし、それは六道の玉が持ち込まれたタイミングを考えるとおかしいのだ。

 

犯人が六道の玉を持ち込める機会は2回ある。1つは、奈々ちゃんとエレベーターで降りてくる際だ。その場合、鳴海さんは不自然だと言っていたが、玉をエレベーターの外に下ろしてから奈々ちゃんを銃殺したのだろう。

2つ目は、日色さんを殺しに降りてきたときである。しかし、犯人は秘密の通路をはしごをつたって降りてきている。しかもはしごの長さが足りなかったため影郎様を伝って降りてこなければならなかったはずだ。

そんな中、成人男性でも両手で持たないと持ち上げられないとされる重量の玉を持って降りてくることは不可能だ。では、上から玉だけ先に落としたのか。しかし、それほどの重量のある玉が落ちてきたら当然床に傷がつくはずだ。また、この際、犯人は祠の中で早乙女教授を眠らせている。4畳しかない祠で、さらにそこで人が眠っているという状態で、高い位置から人に当てず玉を落とすことは難しい。

 

となると、可能性的に玉を地下に運び込んたのはエレベーターで下ってきたときということになる。(そうするとカケルが発見した玉のかすり傷は何だったのか不明だが)その場合、犯人は最初からカウントダウンの殺人を意識していたことになるため、なぜ日色さんと一緒に早乙女さんを殺さなかったのかという疑問に戻ってしまう。

 

私が何か勘違いしているのかもしれないし、読み落としている箇所があるのかもしれない。この点についてわかる方がいれば教えてください。