ミステリ亭 tama

当亭では、主にミステリ小説を蒐集しています。電話線が切断され、橋も落とされたようですので、お越しいただいた方はご自身で身をお守りください。

【幽霊の2/3】ヘレン・マクロイ

 

*ネタバレを含みます。

 

 

マクロイの傑作の1つと言われている本作。

マクロイを語れるほど読んでおらず、またマクロイの魅力を十分とらえられていないので、いまいちどのあたりが傑作なのか分からなかった。(ごめんなさい)

 

この時代にこういう作品がでたことへの評価とかはその時代に詳しくないのでわからない。これまでにないタイプだったかもしれないけど、それもわからない。

 

何点か特徴的だった点を挙げる。

①タイトルのダブルミーニング

幽霊の2/3というゲームと、3人のゴーストライター。結構これは際どいタイトルである。わたしは気づかなったけれど、作家が殺されたといえば、まず考えるのはゴーストライターの存在だ。タイトルの3という数字を頭に入れて登場人物を見ると自然と浮かび上がってくる3人・・・。

 

ゴーストライターたちが、作家を利用する

普通、才能のない作家がゴーストライターを見つけ、利用するのだが、今回はその真逆で、文を書く能力のある人物が、急遽テレビ出演のために作家として表に立つ人物を見繕い、彼を陰で操るのである。

そこで、疑問となるのが、なぜ自分たちで堂々と表に出ないのかである。

その答えは3人いたからだった。つまり、彼らが言うには「多作こそが売れ評価される」のであり、彼ら3人名義で本を出したところで多作なのは当然とみなされてしまうのだ。それなら、架空の1人の作家を作り上げ、3人で大量生産していくほうが、世間は評価するのであるという理屈。

そうすることでうまくやっていたが、テレビ番組を持てるということになり、3人のうちだれかが作家として出ることで保っていたバランスが崩れると考え、代役を用意する。それが今回の被害者である。

このからくりは見事だった。しかし、ここでは①彼らがゴーストライターであったということよりも、②なぜゴーストライターにならざるを得なかったのかという点のほうが大きな核に思えたが、謎解きでは①をベイジルが推理し、②は本人たちが勝手にべらべら語りだすのである。そこが残念だった。

③なぜヴィーラでなくエイモスを殺したのかがいまいちしっくりこない。

エイモスを殺した理由は、ヴィーラと結婚することで作家ではないことがばれてしまうからと考えたわけだが、それなら金の生るエイモスを殺すよりヴィーラを殺したほうがいい。もちろん、エイモスが死んだ後もしばらくは遺作などで稼げる予定だったけれども、それでもテレビ番組などはなくなるし、ヴィーラに遺産をふんだくられるし、どう考えてもヴィーラを殺したほうがいい。

エイモスが覆面であることに耐え切れずばらされてしまう恐れはあるが、トニーが言っている通り、別に犯罪をおかしているわけではない。実際、エイモスもお金は渡っているわけなので。

そこが、いまいちしっくりこなかった。

④ヴィーラ殺し、またエイモス殺しが批評家でなければならないこと。

これは本当にわからない。ベイジルは批評家は文学者の中で一番残虐であるから、犯人なのだと。それで吐露する犯人も犯人である。

 

フーダニットの点ではエイモスが生きていることで利益を得るはずの人間が殺したという意外性はあるが、そもそも3のなぜエイモスを殺さなくてはいけなかったのかがぴんとこないので、不消化である。

メインのからくり(エイモスは作家ではなかったこと)への伏線はあるが、そこから犯人を絞る過程は4のとおり皆無である。

謎解き本というよりは仕掛け本かもしれない。

仕掛けはおもしろいが、仕掛けから続く推理が聞きたかった。