ミステリ亭 tama

当亭では、主にミステリ小説を蒐集しています。電話線が切断され、橋も落とされたようですので、お越しいただいた方はご自身で身をお守りください。

【名探偵の証明】市川哲也

*ネタバレを含みます

 

このミステリにおいては事件はもはや脇役だ。名探偵の栄光と没落の物語である。

 

かつては一世を風靡した名探偵・屋敷啓次郎は、今では世間に忘れられ家賃も払えない哀れな姿に。

歳をとるにつれて推理力が鈍っていく恐怖や、名探偵ゆえに事件を呼び寄せてしまう苦悩などが綴られる。

 

この物語では、名探偵の受ける風評をシビアに描く。

探偵というのは事件を呼び寄せる。テレビや新聞に取り沙汰される名探偵レベルにもなると、探偵に挑戦するために犯罪を起こす人間がでてくる。ゆえに探偵は疫病神だとして、一部の者に厭われ憎まれ、最終的に啓次郎は刺し殺されてしまった。

 

いやはや何というバッドエンド。この理論ではコナンや金田一は一瞬で葬られてしまうだろう。

 

ヒーロー像として描かれる探偵を、等身大の生身の人間に引き下げた作品であり、新しい切り口で非常に新鮮だった。 

 

名探偵というのは、スーパーマンではなく、バッドマンなのだ。

 

10月31日読了